これがホントのねずみ算

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父方の祖母は愛知県岡崎市の小さな町のマンションに1人で住んでいました。マンションの前には川が流れ、川べりには桜並木があり、丁度今の季節、お散歩するには最高の場所でした。
毎年春の嵐で桜が舞い散る時、私は必ず1度は祖母を思い出します。

祖母の趣味は油絵を描く事。センスもあったようで、個展を開いたこともありました。地元の公民館などのエントランスに祖母の描いた大きな絵が飾られていた時もあったようです。
岡崎市の小さな町では、「ちょっとした有名人だったのよ。」と、コップ一杯のお酒を飲みながら、嬉しそうに聞かせてくれる祖母の昔話が私は大好きでした。
小さな体で大きなキャンバスに向かって描いたエネルギー溢れる絵はまさに、彼女の人生そのもので、今も実家の壁に飾ってありますが、「この絵はどこから描き始めたのだろう…」。と思うほど、圧倒するくらいに大きな絵を普段は気にも留めないのに、桜吹雪を見て祖母を思いだすこの季節になると、「聞いておけば良かった。」と思う事の1つです。

とてもオシャレで自由でハイカラな祖母は、亡くなる何ヶ月か前に、岡崎から千葉にある私の実家に引っ越して来ました。住み慣れた家を出て、友人達とも離れ、1人で自由に使っていたマンションから持ち出したのは少しだけの油絵の道具。
知らない街に引っ越してくるのはものすごい勇気とストレスだったと思います。
私達孫も大きくなっていたので帰宅時間は遅い。父も母も自宅がお店でしたので「一緒にいる」といっても日中の自宅には、小さな祖母が1人でいたのがほとんどでした。そんなある日、祖母が「ペットショップへ行きたい」と言い出しました。
「絵のモデル用に何か飼いたい」と。本音は寂しかったのだと思います。
岡崎のマンションでは、以前インコを飼っていましたのでモデルにした作品も何点か見たことがあります。てっきり、今回も【小鳥】だと思っていました。
ところが、妹と弟を引き連れてペットショップから戻って来た3人は大荷物!
お弁当箱サイズの箱に入っていたのは、6匹のハムスター。全部女の子でした。
祖母・妹・弟の部屋でそれぞれ各自がお世話をするようにとハムスターのゲージもそれぞれに。今の時代は、「生き物を飼う→生き物の死を経験する」という教育的にもハムスターが飼いやすいと聞いた事がありますが、30年以上昔、調べることのできるパソコンや携帯電話も身近にはなく、図書館で「○○の飼い方」という本を借りて読んだものでした。でも、この事が孫たちとの会話のきっかけとなり、話を聞いてくれる小さな友達もでき、祖母はなんだか嬉しそうでした。

小屋のお掃除はお天気の良い日に、3人で日の当たる部屋に、6匹を一緒のゲージに入れて、残りのゲージをお掃除。冬だったからか、6匹が寄り添って固まって眠っている姿はとても可愛い。最初は「ねずみと同じよ!」とあまりお気に召さない顔をしていた母も、向日葵の種を口いっぱいに頬張る姿に笑顔で嬉しそうに「口いっぱいに頬張る種はどこで保管しているのかしら…?」と興味津々。
みんなで話題はつきませんでした。

そんなある日…祖母のハムスターと、弟のハムスターが部屋から出てこなくなりました。外から覗くと、部屋の中には細かくした新聞紙がギッシリ!夜行性らしく夜になるとカタカタ動いている音が聞こえるから、生きていることは間違いない。と安心していたら、何やらいつもと違う鳴き声が…!「赤ちゃん…赤ちゃんが産まれている!」気づいた時にはもう遅く、全部女の子だと思っていた子の中に男の子が混ざっていたようです…。掃除するとき、6匹を同じゲージに入れて遊ばせたり、日向ぼっこさせたりしていたから。もちろん、弟の小屋のハムスターも同じ状態になったので、きっと赤ちゃんが産まれているはず。ハムスターは一度に6~8匹出産するようで、さあ!ここからが大変!今まで飼ったことのないハムスターの大家族!取りあえずは、男の子を見つけないといけません。本で調べても、実際にはなかなか判断が難しいです。ペットショップにも電話で聞いたりして、大きさや性格、おっぱいがあるかどうかで取りあえずは3個のグループに分けました。

それぞれのゲージに、妹がハムスターの絵を描いて、名前を付けていました。一匹ずつ柄や柄の色の配分の違いがあるようで、毎日見ていると違いがわかるそうです。祖母のゲージにいたハムスターの赤ちゃんは6匹。弟のゲージにいたハムスターの赤ちゃんは7匹。

そこからが、また大変。産まれた赤ちゃんもしばらくしたら、オス・メスを区別しないといけません。
「別のゲージに分けないと!もっとゲージを用意しないと!」
見分けるのに本を参考にしてはいましたが、なんせ「素人の自己流」。
あんなに気を付けていたのに恐れていたことが…。
また、巣箱に新聞紙をパンパンに持ち込みだしたと思ったら、またもや赤ちゃんが…。
結局、妹が作成した『ハムスターの家系図』は、26匹まではきちんと名前もあり、柄や性格の説明が書いてありましたがその後は、書くことができなくなりました。

ハムスターはそのうち、兄弟同士・親子同士で傷つけるようになって、悲惨な状態になりました。凄くショックでした。それでもゲージの数は、中くらいの大きさで最終的には12個ぐらいあったと思います。

結局、増えに増えたハムスターの40匹以上全部を元のペットショップに引き取ってもらうことになりました。

その後、祖母は叔母の家のそばにある病院へ入院してしまい、実家には戻って来ることはありませんでしたが、そのようなドタバタな毎日の中でもきちんとハムスターの絵を描いていたようで、祖母の目に映るハムスター達はどの子もコロコロに丸くてとても可愛かったのを覚えています。

今年も桜が見事に咲きました。
満開の時に雨が続いて心配でしたが、また来年も変わらず咲くでしょう。
そして、私はまたオシャレな祖母を思い出すのです。